沿革
小川試験地は関東森林管理局茨城森林管理署管内和尚山国有林1林班、通称小川群落保護林(103.51ha)内にあり、茨城県北茨城市関本町小川字定波に位置する。
試験地周辺は福島県から続く阿武隈山地の南部に位置し、冷温帯に属する。基岩は花崗岩で土壌形は適潤性褐色森林土である。暖かさの指数(WI)は80.5℃・月で(Mizoguchi et al., 2002)、ブナの分布南限(WI = 82.3℃・月)に近い(吉良、 1976)。年平均気温は10.7℃、年平均降水量は1910 mmである(Mizoguchi et al., 2002)。標高が500 mから600 mくらいの比較的なだらかな丘陵が連なり、古くから牧畜が盛んな地域である。小川試験地および周辺の森林は原生林ではなく、古くからの放牧の影響、炭焼き、落ち葉かき、山火事など、様々な人為的撹乱にさらされてきた森林である。ただし小川試験地を含む植物群落保護林は、ここ100年ほどは明確な伐採の記録はなく、この付近では最も古い二次林と言える。
この森林は、ブナ、イヌブナ、コナラ、アカシデ、ミズキなどが林冠層を構成し、オオモミジ、ハクウンボク、サワシバ などが亜高木層を構成している。 低木層には、尾根ではアセビ 、ナツハゼ 、ヤマツツジ、バイカツツジ等、林床全般にはコゴメウツギやヤマウグイスカグラ、マンサク、ミヤマガマズミ、オトコヨウゾメなどがみられる。このほか にもクリ、イタヤカエデ、ミズナラ、イヌシデ、ホオノキ、ハリギリ、アサダ、ミズメ、アズキナシ、ウラジロノキ、オオウラジロノキ、コハウチワカエデ 、ウリハダカエデ、ヒトツバカエデ、ミツデカエデ、ヒナウチワカエデ 、メグスリノキ等多くの樹種が生育し、種多様性の高い落葉広葉樹林を構成している。林床にはスズタケやアズマザサ、ミヤコザサが生育し、太平洋側に 典型的な、現在では貴重なブナ林である。植物社会学的にはブナ-スズタケ群集に 分類される。しかし、過去における撹乱の影響のためか、林床をスズタケが優占する場所が限られ、林床植物が豊富である。例えば、カタクリやキクザキイチゲ、ニリンソウなどの春植物が豊富にみられる。キク科のカシワバハグマ、オヤリハグマ、ナガバノコウヤボウキ、オクモミジハグマ、ウスゲタマブキ、オオカニコウモリなども林床に多い。エイザンスミレ、アケボノスミレ 、マキノスミレ、タチツボスミレ 、ヒナスミレなどのスミレ属も豊富である。沢ぞいにはコチャルメルソ ウ、ムカゴツヅリ、ウワバミソウ、オタカラコウなどが多い。つる植物 としてフジ、イワガラミ、 ツタウルシ、ツルマサキ、ツルアジサイ、サルナシが普通に見られる。周辺はスギの人工林になっている林分も多いが、放牧跡地に天然更新した広葉樹 二次林や、皆伐後に萌芽更新した様々な林齢の広葉樹二次林が分布している。