小川試験地について

沿革

  • 茨城県北部、関東森林管理局茨城森林管理署和尚山国有林にあります。
  • 周囲はなだらかな丘陵地で、古くから放牧や火入れ、落葉かきなど人為的な撹乱があったと考えられていますが、2022年現在で過去100年近くは人為的な撹乱はありません。
  • コナラ、ブナ、イヌブナを中心に、シデ類、カエデ類など多数の樹種が生育する成熟した落葉広葉樹林が形成されています。
  • 1969年から、林野庁関東森林管理局の保護林に指定されました(現在の名称は、小川ブナ希少個体群保護林)。
  • 1987年に、保護林の中央部に森林の長期的な動態などを調査する小川試験地(6ha)が設置されました。
  • 2004年から、環境省のモニタリングサイト1000に登録されました。
  • 2006年から、JaLTER(Japan Long Term Ecological Research Network、日本長期生態学研究ネットワーク)のコアサイトに登録されました。

小川試験地は関東森林管理局茨城森林管理署管内和尚山国有林1林班、通称小川群落保護林(103.51ha)内にあり、茨城県北茨城市関本町小川字定波に位置する。

試験地周辺は福島県から続く阿武隈山地の南部に位置し、冷温帯に属する。基岩は花崗岩で土壌形は適潤性褐色森林土である。暖かさの指数(WI)80.5℃・月で(Mizoguchi et al., 2002)、ブナの分布南限(WI = 82.3℃・月)に近い(吉良、 1976)。年平均気温は10.7℃、年平均降水量は1910 mmである(Mizoguchi et al., 2002)。標高が500 mから600 mくらいの比較的なだらかな丘陵が連なり、古くから牧畜が盛んな地域である。小川試験地および周辺の森林は原生林ではなく、古くからの放牧の影響、炭焼き、落ち葉かき、山火事など、様々な人為的撹乱にさらされてきた森林である。ただし小川試験地を含む植物群落保護林は、ここ100年ほどは明確な伐採の記録はなく、この付近では最も古い二次林と言える。

この森林は、ブナ、イヌブナ、コナラ、アカシデ、ミズキなどが林冠層を構成し、オオモミジ、ハクウンボク、サワシバ などが亜高木層を構成している。 低木層には、尾根ではアセビ 、ナツハゼ ヤマツツジ、バイカツツジ等、林床全般にはコゴメウツギやヤマウグイスカグラ、マンサク、ミヤマガマズミ、オトコヨウゾメなどがみられる。このほか にもクリ、イタヤカエデ、ミズナライヌシデ、ホオノキ、ハリギリ、アサダ、ミズメ、アズキナシ、ウラジロノキ、オオウラジロノキコハウチワカエデ 、ウリハダカエデ、ヒトツバカエデ、ミツデカエデ、ヒナウチワカエデ 、メグスリノキ等多くの樹種が生育し、種多様性の高い落葉広葉樹林を構成している。林床にはスズタケやアズマザサ、ミヤコザサが生育し、太平洋側に 典型的な、現在では貴重なブナ林である。植物社会学的にはブナ-スズタケ群集に 分類される。しかし、過去における撹乱の影響のためか、林床をスズタケが優占する場所が限られ、林床植物が豊富である。例えば、カタクリやキクザキイチゲ、ニリンソウなどの春植物が豊富にみられる。キク科のカシワバハグマ、オヤリハグマ、ナガバノコウヤボウキ、オクモミジハグマ、ウスゲタマブキ、オオカニコウモリなども林床に多い。エイザンスミレ、アケボノスミレ 、マキノスミレ、タチツボスミレ 、ヒナスミレなどのスミレ属も豊富である。沢ぞいにはコチャルメルソ 、ムカゴツヅリ、ウワバミソウ、オタカラコウなどが多い。つる植物 としてフジ、イワガラミ ツタウルシ、ツルマサキ、ツルアジサイ、サルナシが普通に見られる。周辺はスギの人工林になっている林分も多いが、放牧跡地に天然更新した広葉樹 二次林や、皆伐後に萌芽更新した様々な林齢の広葉樹二次林が分布している。